沖縄の意外に知られていない「海産物」


沖縄の魚の画像
 
沖縄で暮らし始めて1年数ヶ月。それまで10年間住んでいたアメリカ北西部オレゴンからこの暖かい島に引っ越し、やっと気候にも慣れてきました。日本に戻ってきた我々夫婦が好む外食は回転寿司屋さんです。
  
そこで一つ気になることがあります。度々訪れる大手全国チェーンでは、沖縄の地魚を食べたことがありません。四方を海に囲まれた沖縄なのになぜ沖縄で獲れる魚がネタで出てこないのか?素朴な疑問を持ちました。

沖縄名産の海産物は?

北海道の鮭、毛蟹、うに、帆立、日本海側の寒鰤、ホタルイカ、玄界灘のトラフグ、広島の牡蠣(広島の牡蠣に関する記事)、三陸沖のサンマ、越前の蟹など日本各地には名産、特産と呼ばれる著名な海産物があります。それらは地元だけで消費されるのではなく、全国で広く消費され我々の舌を喜ばせています。
  
翻って、沖縄の海産物はどうでしょうか?
  
人気の沖縄土産の一つとして、プチプチ食感の海藻「海ぶどう」があります。名産と言って良いでしょう。ただし、日持ちせず冷蔵庫に入れると萎びてしまうため、県外で食するには大きな制約があります。
  
沖縄の海ぶどうの画像
  
魚はどうでしょうか?周りを海に囲まれている沖縄にはたくさんの魚がいますが、見た目がカラフルなものが多く、食用の魚に対するデザイン的な先入観から、少し異様に感じる人も多いでしょう。しかし、食べてみると結構美味しいものがあります。ただ、獲れる量が多くはなく、全国に送られることが少ないため、一般的に知名度は高くなさそうです。
  
実際に沖縄で獲れる魚の6割以上はマグロ類で、イカ類が1割程度と続きます。しかし、マグロやイカは他の地域のものが有名で、沖縄名産とはなっていません。
ちなみに、海藻のもずくは全国生産量の9割ほどを占めています。あまり知られていないかもしれませんが、名産と言えそうです。

沖縄には「街の魚屋さん」がない?

沖縄に住んでいる人や行ったことのある人はお気付きでしょう。スーパーの鮮魚コーナーは別として、沖縄には内地にあるような「街の魚屋さん」がほとんど見当たりません。昔からないそうです。

何故ないかというと「魚屋」として商売が成り立たないからではないでしょうか。

沖縄では、どの家からでも、10分も車を走らせれば海に着きます。労を厭わず近くの海で釣りをすれば、1匹や2匹の魚を手に入れることはさほど困難なことではありません。付加価値がなければお金を払って魚を買おうとはしない、という人が多いのかもしれません。

また、沖縄県に住む多くの人にとって、安くて新鮮な魚が買える漁港の市場はさほどアクセスが難しくないという事情もありそうです。魚屋の代わりに「さしみ」と看板がかかった「刺身専門店」があります。しかし、最近では「刺身専門店」も減ってきていると聞きます。

沖縄ならではの魚の味わい方

沖縄では新鮮な魚介類は先ず刺身で食べ、続いて揚げ物、マース煮、魚汁、バター焼きなど焼き物にします。
揚げ物による利用が多いのは、高温多湿の気候による傷みやすい魚を無駄にしない有効な方法でもあるからです。
  
沖縄の海沿いにはリーズナブルな価格で提供してくれる天ぷら屋さんをよく見かけます。沖縄B級グルメとして人気で、内地の天ぷらとは異なり衣は厚く味もついています。白身魚、イカ、もずくなどの天ぷらをおやつ感覚で気軽に楽しむことができます。
  
沖縄B級グルメもずくの天ぷらの画像
  
刺身を食べる時には、ワサビと醤油も使いますが、沖縄では酢味噌や酢醤油、ポン酢につけて食べることもあります。沖縄名産のシークワーサーを醤油に混ぜることもあります。また、「コーレーグス」という島唐辛子を泡盛に漬け込んだ沖縄の調味料を醤油に少量垂らして、ピリッとした辛みを味わう食べ方もあります。タコにとても合います。
  

琉球王朝の財源であった進貢貿易

沖縄の海はラグーン(礁湖)を多く有しているため漁業環境としては好条件であり、古来より漁業は盛んだったようです。
貝類や鮫皮が、14世紀以降に中国の明に対して継続的に行われていた進貢貿易において、硫黄や東南アジア産の漢方薬の原料や胡椒、香木などともに輸出品となっていました。
  
進貢貿易とは中国皇帝へ貢物を献上し皇帝側から返礼品を受けるという、外交活動に絡めた貿易です。日本を含む諸国が進貢貿易を行っていましたが、琉球による回数は多く、2~3年に一度の高い頻度でした。莫大な利益を上げるこの貿易は琉球王朝の貴重な財源でしたが、17世紀初頭に薩摩藩の支配下に入ると利潤の多くは薩摩藩に吸い上げられることになります。
  

鮫漁とサバニ

19世紀に入るとフカヒレの中国への輸出は急増し、年間15トンにも及びました。鮫を求め、当時の漁師は沖縄本島周辺だけではなく、先島諸島や奄美群島まで遠洋漁業を行っていました。
  
遠洋漁業と聞いて驚きますが、使っていた漁船はサバニと呼ばれる、数人が乗り込む小型の舟です。鮫を指す「サバ」と舟を意味する「ンニ」から「サバニ」になったとされています。小型で小回りが効くため、岩礁や珊瑚礁のある浅瀬でも走行可能で、鮫を追い回すのに有用だったようです。
  
このサバニですが、はじめは大木をくり抜いた丸木舟でしたが、そのうち板を張り合わせた(はぎ合わせた)ハギ舟になりました。使用木材の歩留が良さから、森林保護のために琉球王国が推奨したそうです。
  
沖縄の船サバニの画像
  

沖縄名産三大高級魚

沖縄には三大高級魚と言われる魚があります。知る人ぞ知る沖縄の名産品です。
①アカジンミーバイ(和名:スジアラ)
全体が赤く青い斑点に覆われています。大きいと1メートル近くになります。透明感のある白身で、淡泊ながらもうま味がしっかりしています。
刺身のほか、昆布締めやカルパッチョ、塩焼きにしても美味しいです。
  
(全体が赤い方が多いです)
沖縄三大高級魚アカジンの画像
  
②マクブ(和名:シロクラベラ)
ベラ科最大種の一つで、体長50cm位までは雌でそれ以上大きくなると雄に転換します。引き締まった美しい白身で全くクセがありません。特に刺身は甘くて美味しいです。県内流通に限定しているそうで、沖縄の寿司店では高級寿司ネタの一つです。
  
  (上がマクブ、下の魚はアーガイ)
沖縄三大高級魚のマクブとアーガイの画像
  
③アカマチ(和名:ハマダイ)
全身が透明感のある鮮やかな赤色の魚で、深海のルビーと呼ばれることもあります。クセのない白身魚で高級料理店を中心に扱われています。アカジンミーバイよりはリーズナブルだと思います。
  
  (右上の赤い魚がアカマチ)
沖縄三大高級魚アカマチを含む沖縄の魚の画像
  

竹富島での「タマン」

三男と八重山諸島に3泊4日の旅をしたことがあります。この旅行中、釣り好きの息子は気が向けば釣り糸を垂らしていましたが、なかなか思うような釣果を上げることは出来ずにいました。最終日の竹富島での朝、早朝に出かけた息子が帰って来て、やけに嬉しそうな顔をしているので聞いてみると、待ちかねた様に語り出しました。

船着き場で糸を垂らして暫くすると、竿先を海に引き込むほどの強い引きで当たりがあったそうです。慎重にやり取りして吊り上げたのが「タマン(和名:ハマフエフキ)」でした。その大きさは50cm。その後もう1匹35㎝位のものも釣れました。

竹富島のタマンの画像

予想外の大漁でしたがクーラーボックスが無かったため、発泡スチロールの箱を何とか都合し、フェリーと飛行機を乗り継ぎ沖縄本島の自宅に大事に持ち帰りました。その日の夕食に息子は2尾を捌き、刺身とバター焼きと魚汁を作って振舞ってくれました。その時、沖縄にもこんな美味い魚があるのかと驚きました。

タマンは、沖縄では大物釣りとしても人気の魚で、釣って良し、食べて良しの魚であることは、この時に知りました。

干潮時に浅瀬でのタコ釣り

沖縄の美味しい海の幸を紹介していますが、沖縄ならではの釣り体験もあります。

10月、潮のひいた水深の浅い海岸でタコ釣りをしました。釣りといっても竿で釣るわけではなく、数mのテグス(紐)の先に4〜5個の巻貝の貝殻を取り付けた道具を使う変わったスタイルです。
カウボーイのようにテグス(紐)をグルグル回して、数m先の海にピューッと投げ入れ、浅い海中に落ちるとゆっくりと引きます。すると、貝殻のルアーに小さなタコが抱きつきます。大きさは頭から足先まで15~30cm程の小さなタコで、それを手掴みで捕まえます。モタモタしているとすぐに逃げられますが、初心者の私でも1時間半の間に10匹ほど捕獲することが出来ました。

沖縄のシガヤーダコの画像

このタコは地元で「シガヤーダコ」と呼ばれています。塩で滑りをとり、さっと乾煎りし刺身としても、また唐揚げにしても美味しいです。
美味しいタコですが、スーパーや鮮魚店でほとんど売っていません。理由は、獲れる時期が短く漁獲量が少ないためです。

この「シガヤーダコ」は、素人が漁体験を楽しみ余録で美味しく頂ける、一石二鳥の海の幸と言えそうです。

アーサとモズク

海藻類では「海ぶどう」の他に「アーサ」や「もずく」があります。「アーサ」は内地では「あおさ」や「あおさのり」とも呼ばれるものです。
  
私達の住んでいるすぐ近くの海岸近くでも養殖されています。みそ汁に使うのは内地と同じですが、沖縄では沖縄そばに入れたり天ぷらにすることも一般的です。「もずく」の天ぷらはより知られていて、沖縄の名産品となっています。
  

おわりに

沖縄では「飲み会の締めにステーキを食べる」と聞いたとき、「?!」耳を疑いました。
東京などで締めにラーメンを食べるのと同じ感覚とのこと。戦後に駐留米兵が持ち込んだステーキ、ハンバーガー、タコス、ポークなどが沖縄独特のチャンプルー文化で取り入れられ、戦後の復興が進むと共に沖縄の食生活の中で肉料理の存在感が高まった結果なのかもしれません。
  
肉料理が増えたことは食生活が豊かになったことだと思いますが、一方で「四方を美しい海に囲まれる沖縄において、その美しい海で獲れる個性豊かな海の幸をもっと味わっても良いのでは」と思ってしまいます。いかがでしょうか?
  
沖縄の釣りの画像
  

この記事を書いた人

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青井 三郎
食いしん坊侍のスタッフ青井三郎。
戦後、奈良に生まれて大阪で育つ。6人兄弟の末っ子だったせいか、幼少の頃から食べることへの執着が強い食いしん坊だった。
野球少年だったが読書好きでもあり、日本や世界の文化や歴史に強い興味を持つ。大学時代には世界に触れたい欲求が高じ、1ドル360円の時代ではあったが、ヨーロッパ、南米、アフリカを3か月ほど巡る旅をした。結婚し東京で4人の子供を育て終えると、アメリカ西海岸のポートランドに10年間住む。
現在は、美しい海と温暖な気候に惹かれて沖縄に移り住み、気儘に読書や釣りやゴルフを楽しんでいる。

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