食材豊かな福島


食べ物が美味しい都道府県はどこか?私が真っ先に思い浮かぶのは北海道です。九州の福岡県や長崎県、江戸時代に天下の台所と言われた大阪府、北陸の新潟県や富山県を挙げる人も多いでしょう。しかし、今回取り上げる福島県を挙げる人はあまりいないかもしれません。しかしこの福島県、なかなか美味しい所なのです。
   
福島県は面積が広い県で、北海道、岩手県に次いで全国で3番目に大きな県です。太平洋に面する海岸地域を「浜通り」と呼び、阿武隈高地と奥羽山脈に挟まれた地域を「中通り」と呼びます。そして、奥羽山脈の西にある会津盆地を中心とした一帯を「会津地方」といいます。福島県はこの3つの地域からなっており、その地方それぞれに特有の美味しい産物を産み出しています。
  
福島の浜通り、中通り、会津地方の画像

豊洲市場で高い評価を受ける福島の魚「常磐もの」

福島県では沿岸漁業や沖合漁業で様々な種類の魚が獲れます。
漁獲量で見ると、メロウド(イカナゴ)、カツオ、サンマ、サバが多く、それら以外にマグロ、カレイ、イカ、アジなども獲れます。
   
福島の四倉漁港の画像
量的には沖合漁業が多く、魚種としては沿岸漁業が多いです。これらの水産物の多くは大消費地である東京に運ばれることになります。
  
福島県の北部からでも高速道路で東京は5時間程度の距離であるため、夕方までに漁港に水揚げされた魚介類は、翌朝の東京の市場で行われる競りに充分間に合うのです。
  
水揚げされた魚が短時間で市場に出回るため、新鮮で魚種の多い福島の魚は「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれ、各地から水産物が集まる豊洲でも非常に高い評価を受けています。

黒潮と親潮がぶつかる海域がもたらす美味しい魚

福島県の魚が豊洲市場で高い評価を受ける理由は、水揚げから短時間で市場に到着するからだけではありません。
  
最大の理由は、福島県沖一帯が暖流の黒潮と寒流の親潮がぶつかる世界でも有数の漁場であるためです。イワシなどの小魚を追ってサンマ、サバ、カツオなどの回遊魚が集まり、そしてそれらの回遊魚を追ってキハダ、ビンナガなどのマグロ類やブリなどの魚も集まってきます
  
漁であげられた鯖の画像
暖流の黒潮と寒流の親潮が交わる漁場では、当然その流れに乗ってやってくる魚種は多くなり、荒い海に揉まれてやって来るため脂が乗っていて美味しいのです。まさしく福島県沖一帯は「豊饒の海(ほうじょうのうみ)」と言えるでしょう。
  
しかし、地球温暖化の影響のためか、昨今は黒潮、親潮の流れが少しづつ変化してきており、福島県沖では以前ほど沢山の魚が獲れなくなってきているという声もあるようです。

原発事故の風評被害と厳格な安全基準

2011年の東日本大震災による原発事故が引き起こした海洋汚染は、福島県の漁業に大きな影響を与えました。
  
海面漁業の漁獲高について、震災前の2010年と2015年を比べると6割ほどまでに大きく落ち込んでいます。特に風評被害の影響が強い沿岸漁業に限ると2割ほどと激減している状況です。
  
全国の消費者からの信頼を取り戻すため、福島県では放射性物質に対する非常に厳しい安全基準を設けました。
  
国の設定した放射性セシウムの安全基準“100ベクレル/kg”に対し、福島県ではより厳しい“50ベクレル/kg”の基準を設定し安全を担保したのです。
因みに2015年以降は“100ベクレル/kg”の超過率はゼロを記録しています。
  
こうして信頼回復が図られ、東京、仙台、大阪などに福島県産の魚が徐々に出回るようになってきました。

フルーツ王国、福島県

いろいろなフルーツの画像
福島県北部の伊達市、福島市近郊ではモモの栽培が盛んで、山梨県に次いで全国第2位の生産高(2018年)を誇っています。
  
この県北地域はモモ以外にリンゴ、カキ、サクランボの栽培も盛んで、福島県をフルーツ王国たらしめています。フルーツ栽培の盛んな要因の一つは、この地方では1年を通して朝晩の温度差が大きいことが果樹の糖度や生育に適した気候であるということにあります。
  
太平洋側の「浜通り」では、粒が大きく甘味の増したナシ栽培が進みました。
そして、阿武隈高地の日当たりの良いところでブドウの栽培もされています。これらの栽培には定植2年目から収穫できる技術が用いられることも多く、災害で大きな被害を受けたこの地方を復活させる起爆剤にもなりました。

福島県を一大穀倉地帯にした安積疎水

2018年の米の都道府県別生産高で福島県は第6位につけていて、全国的に見ても“米どころ”と言えます。
  
米作が盛んなのは県南部が主で、明治時代の「安積疏水」開通以来、米作が活発に行われるようになりました。明治時代以前、郡山市の南に広がる「安積原野」は水利の悪さから耕作に向かない牧草地でした。
  
そこに、当時のオランダの最先端土木技術を駆使して猪苗代湖から水路を穿ち、荒れ野を耕作地に変える大規模工事(現代価値に換算して400億円)が3年半の歳月をかけて成されたのです。
  
明治維新後、生活に困窮した士族たちが度々反乱を起こし、その解決策としてこの治水工事が行われたという背景がありました。
この工事の結果、それまでの倍の作付け面積と10倍の収穫量をもたらす稲作地帯になったのです。

「会津」のコシヒカリと「中通り」のひとめぼれ

田園から見える磐梯山の画像
日本穀物検定協会が2021年度に発表された米食味ランキングによると、福島県は6銘柄のうち「会津コシヒカリ」と「中通りひとめぼれ」の2銘柄が5段階評価で最上級の「特A」を獲得しました。因みに会津コシヒカリは9年連続で受賞しています。
  
美味しさの理由は、果樹と同様に昼夜の寒暖の差が大きいためです。福島県の気候は稲が発育する7月中旬から穂が実る9月中旬までは日中晴れて気温が上がり、夜間はグンと気温が下がります。太陽光をたっぷり浴びた稲がデンプンを作り、冷え込む夜に栄養をじっくり蓄えます。そうなることで甘みがあって、もちもちした食感のお米が育つのです。
  
さらに、それぞれの地域が良い米を育てる特性を持っています。「会津地方」は周囲を山に囲まれ、清涼な空気や山から流れる豊かな水流があり、「中通り」には中央を流れる阿武隈川の恵みを受けた肥沃な土壌があります。

水力発電、商業発展に貢献した安積疏水

安積疏水麓山公園の飛瀑の画像
  
「安積疏水(あさかそすい)」は稲作利用のためだけでなく、生活用水としても活用されたため、水利の悪い安積原野が居住地としても活用されるようになりました。
   
1898年には疏水に猪苗代湖と安積疏水の落差を利用した水力発電所が3箇所建設されました。沼上発電所、竹ノ内発電所そして丸守発電所です。
  
発電された電力はその当時日本で初めて郡山市まで高圧送電され、製糸業はじめ紡績、繊維産業の発展に繋がりました。

「会津」の日本酒

日本酒の画像
日本酒の酒蔵は全国に約1600軒ほどあります。酒蔵の多い都道府県の1位は89軒の新潟県で、福島県は63軒で4位となっています。そして、63軒の酒蔵の内約半数近くの30軒前後が会津地方にあります。
  
16世紀末期に豊臣秀吉の命令によって会津地域を治めた蒲生氏郷が、産業育成のため酒造りを奨励したと言われていますが、そのことは会津盆地を取り巻く気候風土が背景にあります。
  
酒造りには1に水、2に米、3に技(人の和)と言われますが、四方を山々と河川に囲まれた会津盆地では日本酒造りに必要な、酒造りに適した硬度の清水をふんだんに得ることができます。
  
また日本酒を仕込む冬場は寒く、熟成させる夏から秋にかけては暑くなるという酒造りに求められる時期ごとの寒暖差も備えています。
更には、会津は城下町として栄えた土地であり、日本酒消費者の数は東北地方有数で、江戸時代の早くから多くの酒蔵が建ち、お互いに切磋琢磨しながら酒造りの技術を磨いてきたものと考えられます。

福島で食べた美味しいお米の記憶

私は福島県を度々訪れていますが、それは大学時代の友人が白河市近郊の羽鳥湖に別荘を建てたおかげです。
  
初めて友人の別荘を訪れたのは私が30代後半の頃ですが、その時のことは鮮明に覚えています。私達夫婦と子供4人(10・9・5・3才)と義母の7人で友人の別荘に泊まりました。庭に張り出したベランダにはバーベキュー用のカマドがあり、そこから直ぐ近くのゴルフコースのフェアーウェーやグリーンが眺められ、コースの向こうの山にはスキー場と思しき山の斜面が見えました。
  
夕食の準備に際し、娘と三男を義母に預け、長男と次男を付近のプールに置いて、夫婦で買い出しに出かけました。
友人に紹介されていた農家で米を購入し、野菜や肉や魚などを食料スーパーで調達したのですが、今のようなGPSのない時代のこと、現地の人に尋ねながらの車の移動で、田舎の「ちょっとその先」が延々と長く、買い物を終えたのは予定時間をゆうに1時間を超えてのことでした。
  
薄暗くなったプールに戻ると、息子2人が真っ青な唇をして心細そうに立っていました。話を聞くと、プールには彼ら以外に誰も居らず貸切状態だったとのこと。水は山から掛け流しの水で綺麗ではあるが、息が詰まるほどに冷たかったようです。それでもしばらく泳いでいたが、あまりの寒さにプールから這い上がったとのことでした。誰もプールに入らない訳だと我が無知を反省しました。
  
その日の夕食のメニューは覚えていないが、農家で分けて貰った米が、それまでに食べた米の中で1番美味しかったことはハッキリと覚えています。妻や義母も「美味しいお米ね!」と言っていました。米は粒が小さく、炊飯器で炊いて蓋を開けると、米粒に光沢があり立っていました。あまりにも美味しかったため、帰途に再度その農家さんに寄って60kg分けて貰いました。
  
プールには適さない冷たい水かもしれないが、福島の水は美味しい米に適しているに違いないと思います。

福島で見た美しい星空の記憶

福島の友人の別荘でもう一つ印象に残っていることがあります。それは夜空の星の多さです。
  
夕食後、みんなで庭に出ました。空を見上げると新月だったのか、今までに見たことが無いほどの沢山の星が夜空一面に瞬いていました。
  
満点の星空
とりわけ娘は大はしゃぎです。すると、流れ星が尾を引いて流れて行きました。これにも大騒ぎ。義母が娘に言いました。「流れ星がお空にある間に何かお願い事をすればそれが叶うのよ。」そうこうしているうちにまた流れ星が流れ、娘は願い事をするチャンスを逸してました。
  
30〜40分の間に何回も流れ星が流れたが、みんなが上手く願い事を言えたのかは分かりません。私は家族が健康に過ごせることを上手く願えました。そのうちの幾つかは何処かの国の人工衛星だったかも知れませんが、、、。
  
家族全員で訪れたのはこの時が最初で最後となりましたが、これまで妻と4〜5回この友人の別荘にお邪魔しています。桜満開の白河の小峰城を散策したり、紅葉の美しい時期に付近の温泉に入ったりと、この友人の別荘のおかげで大いに福島を楽しませて貰ってきました。友人には本当に感謝しております。

新潟で食べた美味しいお米の記憶(余談)

日本人である以上、お米の美味しさの記憶は人生のハイライトになり得ると思います。福島の友人別荘でのお米の衝撃に勝るとも劣らなかったのは、やはりというべきか、新潟のお米でした。
  
大学生、浪人生、中学生の息子たち3人と、新潟に一泊泊まりの海水浴に行った夏のことです。食欲旺盛な男ばかり4人の旅行だったので、とにかく手頃な値段で食事の良い宿を知人に紹介して貰っていました。
  
夕食は充てがわれた部屋ではなく、1階の座敷で取ることになり、次男と三男が先に降りて行ったが、食卓に並べられた膳を見て我々4人の席がないと言って戻ってきました。大きな食卓に所せましと料理が盛られた器が並んでいて、確かに4人にしては多すぎるようにも見えたため、念のため帳場に行って確認すると、我々の席だと言うのでみんな安心して席につきました。
  
息子たちは食卓にこんなに沢山の料理を出された経験がないため、「これで4人分なの!?」と感極まった様子で、貪るように「うまい!うまい!」と言いながら食べていました。ご飯はお櫃に入れてあり、自由にお代わりが出来ました。しばらくしてお櫃の米が無くなり、誰かが「もうご飯はないよ」と言うので、私が「調理場に行けば貰えるんじゃないか?」と言うと、次男と三男が行きました。
  
しばらくして2人がお櫃を抱えて戻り、それを追いかけるように女将さんがやって来ました。

「お櫃を持ってこられたので、なにか不都合があったかとビックリしたんですよ」
と、女将さんは言いました。

「いゃ〜、申し訳ありません。料理は勿論ですが、お米もとても美味しいので、子供たちがうまい!うまい!と言ってお代わりするものですから、、、」
と、私は言いつつ頭を下げると、

「そんなに美味しいと言われて嬉しいです。お櫃ごとお代わりと言われたのは初めてです!」
と、女将さんが答ました。
  
この時のコシヒカリも絶品で、強烈に記憶に残りました。

まとめ

福島県は、「浜通り」「中通り」「会津地方」の異なる特色を持つ地域が多様な産物を生む魅力に富んだ県です。
  
海産物、フルーツ、お米、日本酒といった美味しいものに溢れているだけでなく、美しい海があり、美しい湖があり、美しい山があり、あちこちに素晴らしい温泉があります。食と自然と温泉、これら3つが揃った素晴らしい県というのが私の持論です。
  
私は友人のおかげで福島県に何回もお邪魔する機会があり、福島県の魅力をたくさん味わうことができて、改めて非常に幸運だったと感謝しています。
  
  

この記事を書いた人

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青井 三郎
食いしん坊侍のスタッフ青井三郎。
戦後、奈良に生まれて大阪で育つ。6人兄弟の末っ子だったせいか、幼少の頃から食べることへの執着が強い食いしん坊だった。
野球少年だったが読書好きでもあり、日本や世界の文化や歴史に強い興味を持つ。大学時代には世界に触れたい欲求が高じ、1ドル360円の時代ではあったが、ヨーロッパ、南米、アフリカを3か月ほど巡る旅をした。結婚し東京で4人の子供を育て終えると、アメリカ西海岸のポートランドに10年間住む。
現在は、美しい海と温暖な気候に惹かれて沖縄に移り住み、気儘に読書や釣りやゴルフを楽しんでいる。

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